PROJECT STORY

ドコモのプロジェクト事例

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AIによる再生可能エネルギー

再生可能エネルギーの安定供給を支援するAI開発

OUTLINE

「脱炭素化」。今、この言葉が世界中のキーワードになりつつあります。しかし、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、自然現象の大きな影響を受けるため、“安定供給”という観点ではまだまだ課題も多くあります。

発電設備や通信設備ではバックアップ用の電源として、蓄電池システムが広く利用されていて維持・管理には専門家による診断が必要となります。大規模な設備になると数十万個の電池を使用するため、人間の診断だけでは手が届かず、これでは再生可能エネルギーの普及が加速するはずもありません。

「AIの技術で、専門家の知見を再現できないか」。スマートファクトリー推進室のプロジェクトメンバーが、当時を振り返ります。

PROJECT MEMBER

私たちが紹介します
伊藤 浩二
イノベーションセンター テクノロジー部門
ビジネスソリューション本部 事業推進部
スマートファクトリー推進室兼務
Ito Koji
伊藤 浩二
切通 恵介
イノベーションセンター テクノロジー部門
Kiritoshi Keisuke
切通 恵介
横谷 直人
ビジネスソリューション本部 事業推進部
スマートファクトリー推進室
Yokoya Naoto
横谷 直人
藤澤 裕記
ビジネスソリューション本部 事業推進部
スマートファクトリー推進室
Fujisawa Hiroki
藤澤 裕記

ROAD MAP

  • Phase 01 課題抽出

    蓄電池システムのメーカーから、蓄電池の異質を発見するために新しいテクノロジーを活用したいという相談を受け、予備実験へと踏み切る。

  • Phase 02 予備実験

    蓄電池システムの課題解決に、AIを活用することが可能なのか。お客さまと二人三脚でデータを突き合わせ、AIの有用性を徹底的に検証。

  • Phase 03 技術開発

    異質な蓄電池のデータを抽出するためのアルゴリズムをいかに構築するか。実際の環境に可能な限り近づけることで、実用性を高めていく。

  • Phase 04 技術検証

    「蓄電池システムの故障予兆検知技術」の開発に成功。100%の精度によって、専門家がいなくてもメンテナンスできる蓄電池システムを可能にする。

  • Phase 05 事業化

    開発成功のリリースにより大きな反響を得た。この技術のビジネス化、さらには蓄電の新たなプラットフォームを目指してプロジェクトは拡大していく。

Phase 01 課題抽出

そのデータはそもそもAIに扱えるのか

最初に相談を受けたのは、AIチームのプロジェクトマネージャーを務める伊藤でした。「声をかけてくださったのは、蓄電池システムの開発・販売を手掛ける株式会社GSユアサ(以下、GSユアサ)の技術者の方でした。長年、電池の研究されるなかで、私たちには見分けることができない微細な波形の違いも見分けることができる方でした。一方で、蓄電池の異質を発見する方法として、人の感覚だけに頼るのはもちろん、単なる統計処理にも限界を感じられているご様子で、AIで何とかしたいという熱い想いを感じました。」
再生可能エネルギーの蓄電池システムでは、数十万個という膨大な蓄電池が並ぶことになります。これを専門家が一つ一つを維持・管理することは困難であるため、AIの力で自動化したいというのが依頼内容でした。しかし、果たしてAIは専門家の代わりに、蓄電池の声を聴くことができるのか。「そもそも各電池の違いを見極める手段として、ディープラーニングの技術が使えるかどうかもわからなかったため、まずは予備実験から始めることにしました」。
Phase 02 予備実験

データもデータの見方もお客さまだけが知っている

予備実験を担当した切通は、大学時代からデータ解析の経験がありました。しかし、社会実装に向けたデータ解析には、学問レベルとは異なった難しさがあると言います。「学術レベルでは、評価するためのデータや指標がオープンデータで与えられ、ある程度決まっています。一方、社会実装する際のデータ分析では、まず現場のお客さましか分析するべきデータを持っていません。しかも、私たちにとって“蓄電池”というのも全く未知の領域ですし、提供いただいたデータをお客さまがどのように扱われているのかも知らないため、評価の指標自体がわからない状態です。その指標をお客さまとすり合わせながら構築していくのですが、すこしでもぶれるとAIによる分析結果がお客さまの知見と合わなくなる。そこの整合性を、お客さまとの二人三脚で徹底的に合わせていく作業でした」。
また、ビジネスで活用する際には、事業性という指標も欠かせません。AIで正確なデータ分析を実現し、さらにはそれが事業に収益をもたらすものにならなくては、お客さまに価値をご提供することはできません。
Phase 03 技術開発

社会実装を実現するために

予備実験の成功を受けて、AIチームは本丸への挑戦を決断します。しかし、日本製品の品質は高く、蓄電池で故障が発生する事例が少ないという問題もありました。
「正常な稼働データしか手に入らなかったため、異質な蓄電池を発見するための実験環境を、人為的に作り出さなくてはならず、お客さまに通常の電池ではないデータをいただいて評価することにしました」と語るのはプロジェクトマネージャー兼解析担当の横谷です。しかし、この手法では実験の前から“異質”の答えがわかっているため、たとえAIが検知できたとしても手放しで喜べる結果とは言えません。
「これでは実用性に欠けるため、次の段階として正常なデータの平均値をとり仮想的な正常電池をつくった上で、仮想的な正常電池の特徴をAIで学び、学習した正常電池の特徴から外れるものを“異質”とする手法をとりました」と語る横谷だが、この時点である大きな問題の存在に気づきます。蓄電池は経年変化や季節変化の影響も色濃く受けるため、“今日の正常”が“明日の正常”とは限らないのです。光明が顔を出したと思えば、新たな課題が顔を出す。まさにこれこそが、AIテクノロジーの社会実装の難しさとも言えるでしょう。
Phase 04 技術検証

メンテナンスフリーAIの誕生

数々の困難を乗り越えたからこその飛躍なのかもしれません。AIチームは複雑に変化する“正常”にも追従し、“異質”を抽出できる「蓄電池システムの故障予兆検知技術」の開発に成功します。その精度はほぼ100%。これによって専門家による目視も必要なくなり、最大で故障の2ヵ月前には“異質”を発見できるようになりました。
「当時は1週間に1回という短期間のサイクルで解析を実施していました。こうした高速でプロジェクトを回せる体制が整っていたことも、今回のような技術が生まれる大きな土壌になったと思います」という横谷の言葉に、伊藤も頷きます。「お客さま、営業、解析、そして技術開発チーム。プロジェクト全体に一体感があったことも大きかったですね」。
スマートファクトリー推進室は、先進的な技術の事業化をめざす部署です。常に困難がつきまとう彼らのモチベーションの源泉とは何か。「今回の技術は、再生可能エネルギーの安定供給を支えるものです。こうした社会への影響が大きいプロジェクトに携われることが純粋に嬉しかったですし、技術者としては誰もやったことがないような開発の方が腕が鳴りますから」と入社5年目の切通は語ります。
Phase 05 事業化

数百億円規模の市場創出を目指して

この技術の登場は、ニュースリリースで発表されるとともに大きな反響を呼びました。「今回の成功は数十億円、数百億円の事業規模になる可能性を秘めています」と語るのは事業検討支援担当として新たにチームにジョインした藤澤です。
「従来はお客さまの課題に応えるかたちでソリューションを開発するビジネスが主流でした。しかし、今回のケースは売り切り型、つまり売って終わりというプロジェクトではありません。成果報酬型と言えばいいでしょうか。」
今、NTT Comはコンサル段階からお客さまの懐に飛び込み、お客さまとともに事業創出をめざすBtoBtoXというビジネスモデルの構築に力を注いでいます。「お客さまの目線で見れば、将来の成果が見えないなかで莫大な投資をするのは難しい。しかし、NTT Comが先行投資すれば、クライアントも事業変革に挑戦しやすくなります」。
藤澤によれば、今回の技術開発も故障予兆検知だけに留まるものではないと言います。「この成功を取っ掛りにして、蓄電におけるプラットフォームといった大規模なビジネスを創造していきたい」。
チームは、すでに次の未来を見据えています。
※掲載内容は2021年2月時点のものになります
※十分な感染対策を行い、撮影時のみマスクを外しています

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